【日経グッデイ掲載】うつ休職の本当の原因は「大人の発達障害」だった?

日経グッディ掲載
うつ休職の本当の原因は「大人の発達障害」だった

うつ病などの気分障害の患者数は全国で100万人を超えており、ビジネスパーソンにとって大きな健康問題です。この連載では、東京のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスします。

大人の発達障害のケースをご紹介

皆さんの周囲に「うつの症状」による休職を2度、3度と何度も繰り返しているというような方はいらっしゃるでしょうか。

何度も休職、再休職を繰り返している場合、うつの症状の裏側に別の疾患=背景疾患が隠れていることがあります。前回は、ごく軽く短い期間の躁(そう)状態に気づけなければ診断できない「双極Ⅱ型障害」が、うつの症状の背景に隠れているケースについてお伝えしました。
今回は、休職を何度も繰り返す、本当の原因は「大人の発達障害」だったというケースをご紹介します。

近年、「大人の発達障害」という言葉が使われることが増え、一般の皆さんにも知られるようになってきています。これをお読みの皆さんの中にも「聞いたことがある」という方もいらっしゃるのではないかと思います。

私のクリニックでは、2005年からうつの症状で休職した会社員の復職を支援する「リワークプログラム」を行っていますが、2010年頃から「プログラム参加者の中に、どうも発達障害の傾向を持つ人がいるようだ」と感じることが増えました。

発達障害は病気ではなく脳機能障害

発達障害は病気ではありません。生まれながらの脳機能障害です。障害と聞くと、厳しいことのように思うかもしれませんが、その程度はさまざまです。また、発達障害があるからと言って、働けないということでもありません。発達障害には「周囲とのコミュニケーションが苦手」「不注意によるミスや忘れ物が多い」といった苦手なことや困りごとがありますが、これらの表れ方やその程度は人によって違います。

また、この障害が起こる原因ははっきりしていません。遺伝や体質など、いろいろな要因が重なり合って起こるとされており、また、人口に対して約1割ほどと、一定の割合で発達障害の人がいることもわかっています。

子供の頃に本人に近い家族が気づくことが多く、かつては子供の障害のようにとらえられていましたが、近年は、子供の頃から苦手なことがあっても、その障害の程度がごく軽く目立たないために、周囲が気づかないまま大人に成長し、社会に出ると環境になじめずにうつなどの症状を呈すケースが増えています。そして、大人になってから発覚した発達障害を「大人の発達障害」と呼んでいるのです。

なぜ大人になって発覚するのか。それは、成長して社会人になって就職すると、苦手なことにも仕事として取り組まなければならなくなるためです。「大人の発達障害」は大きく分けると2つあり、その特徴は以下のようなものです。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の主な特徴

草食系、おとなしい方である。喜怒哀楽を表にあまり出さない。場の空気を読むのが苦手。目上の人に失礼な態度をとってしまうなど、人とコミュニケーションがうまくとれないことが多く、職場で人間関係を築くのがあまり得意ではない。他者の気持ちを想像したり、他者の視点に立って考えることが苦手。集中力は高いが、他のところにまったく注意がいかなくなることがある。視覚、聴覚などの感覚が過敏。物事へのこだわりが強く、興味が偏っていることもある。働き方を柔軟に変えるのが難しい。これからのことを予測して予定を立てることが苦手。

注意欠如・多動性障害(ADHD)の主な特徴

忘れ物や失くし物が多い。2つの異なることを同時に行うのは苦手。注意が集中せず、部屋が片付けられない。不注意による仕事上のケアレスミスがあり、気を付けていてもミスが減りにくい。幼い時に目立った落ち着きのなさ(多動性)、思い立ったことをすぐにやりたくなる(衝動性)は大人では目立たなくなっているものの、時に現れ、常に動き回ったり、せわしないことがある。親しみやすいところがあるが、カッとなりやすい。

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このように大きくとらえると2つに分かれるものの、大人になるまで気づかれないほど軽度の「大人の発達障害」は、これらの両方の傾向を持っていることが多いのが特徴です。両方の傾向を持っているという前提で「どちらの傾向が目立つか」と考えます。

うつ病と診断されて休職したものの…

そして、このような特性を持っていることから、職場で「上司の指示がうまく理解できない」「仕事のスピードが遅い」「段取りが組めない」といったことに直面し、トラブルになって叱責されたり、うまくいかずにストレスを感じることが増えると、憂うつになる、眠れなくなる、食欲不振になるといった「うつの症状」が現れて、うつ病と診断されて休職することも起こります。

また、システムエンジニアなど自分の得意な分野で、独りでコツコツと仕事をして成果を挙げてきた人が、歳を重ねて経験を積み、出世してチームのリーダーなどになった場合、苦手な「周囲とのコミュニケーション」場面に直面することになります。

独りで取り組む仕事なら、同僚や部下とのコミュニケーションで苦労することはありませんが、チームのリーダーとなれば、当然、チームのメンバーとの人間関係が生じます。発達障害の人は「部下の気持ちを推し量る」「チームとして仕事をうまく進めるために周囲に気配りする」といったことが苦手なため、うまく対応できないことにストレスを感じ、うつの症状が現れて休職してしまうということもあります。

一見、職場環境に適応できずにうつ症状などが出てきますので、「適応障害」と診断されたりしますが、うつの症状は二次的なもので、本当の原因は本人の発達障害にあります。休職して職場を離れ、服薬治療などを行えば、うつ症状は改善します。しかし、発達障害が消えることはありません。そのため、うつ症状が改善した時点で復職しても、同じ経緯でストレスに曝され、やがて、うつが再燃するという負のスパイラルに陥り、再休職を繰り返すことになりやすいのです。

この「大人の発達障害」は、子供の頃に目立つ症状がなく見過ごされてきたため、多くの人は障害があってもその程度は軽く、傾向としては薄い人が多のですが、本人や周囲の人の困りごとは小さくありません。

人格的な問題ではなく一定の割合で存在する発達障害

さて、ここで一つ、明確にしておきたいのは、大人の発達障害は「性格のせいだ」「やる気がないからだ」と、その人の人格的な問題としてとらえられがちですが、「全くそうではない」ということです。発達障害的な要素は程度の差があるだけで、実は誰もが多かれ少なかれ持っているものです。仮に、当てはまることが多い場合でも、それはその人の性格や人格に起因するものではありません。

また、発達障害の人は不得意なことがある一方で、「人よりも得意なこと」や「優れた能力」が突出するのも特徴です。

例えば、「Aさんは会社の自分のデスク周りの片づけはまったくできず荒れ放題だけれど、文章の構成力、執筆の表現力においては大変優れている」「Bさんは興味のない仕事は苦手だが、何か特定のことにこだわると、集中力を維持したまま長時間向き合い続けることができ、優れた結果を出せる」といった具合です。

また、障害と言っても現れ方は千差万別であり、学歴が高く、人気企業に就職している人もいます。身近なところでは医師や弁護士などに発達障害やその傾向を持つ人が多く、著名人ではビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズなどグローバル企業の創業者の彼らや、歴史上の人物ではアインシュタインやモーツアルトにも発達障害の傾向があったことが知られています。

得意なことを生かしながら、不得意なことをどう乗り越えていくかと、とらえるのがよいでしょう。

ここでそれぞれの得意なこと、不得意なことを整理して挙げておきます。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の得意・不得意な仕事

<得意な仕事>
・規則的、計画的に行う仕事
・同じ作業を反復する仕事
・難解な専門知識を使う仕事
・膨大な情報量を扱う仕事
<不得意な仕事>
・製品を管理、整理する仕事
・計画臨機応変に変更する仕事
・顧客ごとの個別対応を求められる仕事
・対話中心で形にならない要素が多い仕事

注意欠如・多動性障害(ADHD)の得意・不得意な仕事

<得意な仕事>
・臨機応変に手早く作業する仕事
・自主的に動き回る仕事
・ひらめきや企画力を求められる仕事
・新しい情報を求める仕事
<不得意な仕事>
・移動が多く、身体を良く動かす仕事
・文字や数字の細かい確認が多い仕事
・長期的な計画を立て、じっくり進める仕事
・自分から動くよりも待つことが多い仕事

誰にでも得意・不得意なことがありますが、発達障害の人の場合は、不得意な仕事が目立ち、その改善が苦手です。また、人事異動や転勤、昇進などをキッカケとしてトラブルが起こる場合が多いのも特徴です。つまり、自分の障害特性に合った仕事から、苦手な仕事の職場に異動になったことによって、トラブルが増え体調を崩すということです。

例えば、コミュニケーションの苦手なASDの人が、個人作業の多い仕事から、打ち合わせが多い部署に異動になれば、トラブルが発生しやすくなるという具合です。障害の特性が仕事に合っていない場合には問題が起こりやすいため、原則的に障害の特性に合った仕事をすることが望ましいといえます。不得意なことがある一方で、突出して得意なことがあり、その得意なことを生かす仕事なら、十分成果を挙げられるでしょう。

では、例えば、これをお読みのご本人や、あなたの周囲の人が、うつで休職を繰り返している場合、「もしかしたら、大人の発達障害なのかもしれない」と気づいた時にはどうしたらよいでしょう。

本人の困りごとと、職場側の困りごとを整理すること。そして本人が、自分の得意・不得意なことを知ることが大切です。そのためには、まず本人が本当に発達障害なのか検査を受けることです。

発達障害は医学的には精神疾患のカテゴリーで診療・研究されています。近隣に発達障害の診療を行う精神科医がいれば、そちらを選びます。受診先が見つからない場合は大学病院や総合病院を受診して、精神科を案内してもらいましょう。

発達障害に関する相談機関

病院が見つからない場合はお住いの地域の役所や公的機関に相談してみてください。

・役所の福祉担当窓口や保健所、保健センター
・精神保健福祉センター
・発達障害者支援センター など

その上で、対策を身につけましょう。

【Step1】発達障害を知る

どのような種類、特性があるのか。発達障害についての書籍などを読むことでも発達障害の特徴をしることができます。

【Step2】自分の特性を知る

同じ障害でも、特性の現れ方は一人ひとり個々に違います。複数の発達障害が併存していることも、聴覚や触覚などの感覚面に特性がある人もいます。自分の特性を理解しましょう。

【Step3】対策を身につける

自分の特性を理解したら、それが生活上の困難につながらないように対策を身に付けましょう。特性を治そうとするのではなく、特性があっても不便がないように、確認作業を増やしたり、周囲にサポートを求めたりします。

※参考図書

発達障害の人が長く働き続けるためにできること:五十嵐良雄

次回は自身の発達障害をテーマにた漫画「なおりはしないが、ましになる」を描かれた漫画家でエッセイストのカレー沢薫さんとの対談をお伝えします。

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