【日経グッデイ掲載】うつ病の理由は?ストレス対策はもはや必須のビジネススキル

【日経グッデイ掲載】東京・大手町の精神科医 Dr.五十嵐の診察室・番外だより
敵を知り己を知れば百戦危うからず:ストレス対策はもはや必須のビジネススキル

うつ病などの気分障害になった会社員の、本当の理由は「大人の発達障害」だったというケースが増えており、ビジネスパーソンにとっては大きな健康問題となっています。この連載では、東京・大手町のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスしたいと思います。

予防が大切!ストレス対策を身につけよう

現代社会で働く場面で「ストレス」を感じることは、もはや日常茶飯事です。そして、ストレスを長く受けると「胃が痛み出す」「食欲が減退する」「眠れなくなる」といった、身体的なストレス反応が表れ始めます。この状態が長く続けば、「気づいた時には胃に穴が開いていた」などと、さらに体調は悪化しかねません。

しかも、ストレスのない仕事、職場などはありません。仕事や職場にストレスがつきものであるならば、平時から自分にとって効果的な予防線を張っておくことは大切なことであり、自分なりのストレス対策法を考えて、備えておくことは、もはや必須のビジネススキルです。

日常のストレスの源を明確に

中国・春秋時代の兵法書「孫子」には、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という有名な兵法上の奥義があります。

まずは、自分の敵を知ることです。仕事の場面にはストレスを引き起こす原因がたくさん潜んでいます。では、どういう環境があなたにストレスを与えているのでしょうか。おそらくそれは一つではないでしょう。苦手に感じること、不快に感じること、できれば避けて通りたいと思っていること…。どういう環境、どういう状況、どういう人があなたにストレスをもたらすのか、あなたが感じるストレスの源を明確にしましょう。

そして次に、自分にとって、ストレスを発散し解消するのにどういう方法が効果的か、どのような状況が最もリラックスできるかという、自分なりのストレス解消方法を準備しておくことです。今回から何回かに分けて、現代のビジネスマンに必要なストレス対策についてご紹介していきます。初回は、仕事の場面や職場でどういうことをストレスに感じるのか、という点についてです。あなたの仕事上のストレス要因を読み解くことから始めます。

ストレスマネジメントとは?

ここでは、わたしのクリニック、メディカルケア虎ノ門・大手町の「リワークプログラム」の中で実際に行っているストレス対策方法をご紹介します。

リワークプログラムは、うつと診断されて会社を休職したビジネスマンの皆さんが、復職して同じような環境に戻っても再休職することなく働き続けられるよう、復職前に一定の期間クリニックに通ってもらい、再休職しないための、さまざまなノウハウを身につけるプログラムです。

いわば、働き続けていくために「うつから身を守るためのプログラム」とも言えるでしょう。当クリニックではこのプログラムを2005年に導入し、2021年5月までに1700人が職場に復職しました。

そして、このプログラムの重要な内容の一つが「セルフケア能力の強化」です。これは自分で自分をケアして、健康な状態を保つ能力です。うつによる休職から職場に復帰してストレスに再び曝されても、気分や体調の安定を保ち、再休職せずに働き続けられることを目的としています。

そこで、ここでは、実際に当クリニックのリワークプログラムで行われている「ストレスマネジメント」の一部を紹介します。この内容が皆さんの役に立つのではないかと考えています。

まず「敵を知る」。皆が同じことにストレスを感じるわけではない

ストレスをまったく感じない人は、おそらくいないでしょう。では、私たちはストレスをどう知り、体感するでしょうか。何かに接して「イヤだ」「苦手だ」「困った」「うまくできない」などと感じ、気分が重くなる、緊張する、不安になるといった心理的な変化をまず覚えます。そして、その状態が進むと「胃が痛くなる」「食欲がなくなる」「眠れなくなる」といった身体的な変化が現れます。

こうした反応を、ストレスが引き起こす反応=「ストレス反応」といいます。そして、これらのストレス反応の原因としては、誰かの言動や、何かしらの刺激や出来事、衝撃的なニュース、天候・気温の変化など、多種多様な自分を取り巻く環境からの影響があります。こうしたストレス反応の原因となるものを「ストレッサー」といいます。

ストレスが引き起こす反応:ストレス反応
ストレス反応の原因:ストレッサー

日々の生活にはストレス反応の原因となる、さまざまな出来事や刺激(=ストレッサー)があります。でも、その一つひとつが、万人に等しくストレス反応を起こさせるわけではありません。ある人にとってはストレスに感じることでも、別の誰かにとってはそうではないのです。

コロナうつ

例えば、Aさんは細かい作業にストレスを感じるけれど、Bさんは感じない。BさんはCさんの言動にストレスを感じるけれど、Aさんは感じないというように、同じ出来事でも、その受け止め方には個人差があります。これは見落としがちな点です。同じ環境にいても、ストレスに感じることは人によって違うのです。あなたの敵は、ほかの誰かにとっては敵ではないかもしれません。あなたはご自分の敵=ストレッサーを正しく理解していますか?

また、ストレス反応の原因となる出来事(=ストレッサー)に直面した時に、どう対処するかによって、自分に現れるストレス反応は変わってきます。また、「相談できる友人や家族など、サポートしてくれる存在があるかないか」「効果的なストレス解消法を持っているかどうか」によっても、その後の状況は変わってきます。では、さっそく具体的な仕事の場面でのストレスについて考えていきましょう。

リワークプログラムでは、まず仕事の場面で自分はどんなことにストレスを感じるのか、自分の「ストレスの原因(ストレッサー)」を確認し、次に自分でできる「ストレス対処法(ストレスコーピング)」について考えます。つまり、自分の課題や弱点を知り、対処法を考える。これがストレスから自分を守ることにつながるというわけです。

自分が「どういうこと」にストレスを感じるか、調べる

まず、自分がどんなことにストレスを感じるかを整理して、自分にとっての「ストレッサー」(ストレスの原因)が何であるかを確認します。案外、自分のことは気づいていないことが多く、知らないものなのです。具体的に確認してみましょう。下表は仕事の場面で、どういう状況が自分にストレス反応を引き起こすかを確認するためのワークシートです。リワークプログラムで実際に使用しているものです。

「仕事・職場のストレッサー13分類」というこの表(米国国立職業安全保健研究所(NIOSH)の職業性ストレスモデルを元にメディカルケア虎ノ門リワークプログラムにて一部改変)には「量的な労働負荷」「労働負荷の変動」「認知的要求」「グループ内の対人葛藤」といった、仕事や職場でストレスの原因となる主な項目がタテに列記されています。

表の内容を読んでみてください。項目は13個ありますが、いずれも読んでいるだけでストレスフルな印象です。それぞれ、これらが自分にどう影響するかをチェックしていきます。

例えば、「量的な労働負荷:たくさんの仕事があり処理しきれない」という状況が自分に悪い影響を与えると思ったら、その度合いを「マイナス1」から「マイナス3」の3段階で評価します。逆に、自分に良い影響を与えるなら、「プラス1」から「プラス3」の3段階で評価します。何も影響を与えない場合は「ゼロ」にチェックという具合です。

ここでいう「悪い影響」は不安や恐れなどを感じるかどうか。「良い影響」は逆にヤル気が出る、前向きになれるといった場合を指します。これらの項目について自分がどう感じるかを確認することで、自分が何にストレスを感じやすいのかがわかる個人ワーク(作業)です。

自分の特徴を知ることが、対策を考える第一歩

リワークプログラムでは個人ワークが終わると、5、6人ずつのグループに分かれてグループでのディスカッションを行います。各人が、何にどういう評価を付けたかを話します。さきほどの表の項目は、どれも悪い影響しか与えない(つまり、ストレスになる)ような内容ばかりのように思えますが、実は、その影響を感じる対象やその程度は人によって違います。

ある人は「マイナス3」と悪い影響を強く感じているけれど、別の人は「マイナス1」と、それほどでもない。リワークプログラムでは、グループで自分の選択した内容を話し合うことで、そうした個人差があり、自分の特徴にも気づきます。

13個の各項目について、自分が「ストレスに感じる」場合は左の目盛りの「-(マイナス)」方向に、そのストレスの強さが3段階のいずれに該当するかを判断してチェックを入れます。強烈にストレスを感じる場合は「-(マイナス)3」、ごく軽いストレスの場合は「-(マイナス)1」という具合です。

逆に「やる気が出る」「前向きに気持ちになれる」という場合は「+(プラス)方向」に、その気持ちの強さが3段階のいずれに該当するかチェックを入れます。これによって、自分が「どんなことにストレスを強く感じるか」がわかります。「私は『量的な労働負荷』がマイナス3です。組織改編があってから業務が増えて、残業がどっと増えて、これが体調不良のキッカケになりました」

ああ、ありますよね、そういうこと。私の場合は『役割の曖昧さ:自分の権限がはっきりしない』が、最大のストレスでした。

ストレスの感じ方は人によって違う

客先で『こうしてほしい』と言われても、即答できない。細かいことでも、いちいち上司の確認を取っていたら客の機嫌が悪くなった」など、それぞれが自分の体験を話すことで、自分以外の他の人がどんなことにストレスを感じるかを知ります。「人によって、ストレスに感じることは違う」、「同じストレッサーでも、人によってストレスに感じる程度が違う」、といったことにも気づきます。

13種類の項目は、一つひとつが独立して起こるわけでもありません。複数の要素が重なることもあります。また、プラス評価の要素とマイナス評価の要素が組み合わさるとマイナス評価がやわらぐこともあり相互の関連性もあります。

リワークプログラムでは、同じストレッサーに遭遇した時の対処法を考えるために、仕事の場面で自分がどういう状況にストレスを感じていたかを思い出し、漏れなく具体的に整理することを勧めています。「漏れなく」思い出して整理することが大事です。あるいは、ストレスを感じた時に、その状況を記録しておくことも、同じような状況への備えにつながります。

皆さんは先ほどの表から、仕事の場面で自分がどんなことにストレスを感じるか把握できましたか?次回は取り組みやすいストレス対処法をご紹介します。

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