「なおりはしないがましになる」カレー沢薫 さんと⼤⼈の発達障害について語る

「なおりはしないがましになる」、カレー沢薫さんと発達障害について語る
第6回:発達障害患者&主治医対談
2021/5/11 五⼗嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所⻑

うつ病などの気分障害になった会社員の、本当の理由は「⼤⼈の発達障害」だったというケースが増えており、ビジネスパーソンにとっては⼤きな健康問題となっています。この連載では、東京・⼤⼿町のビジネス街で精神科クリニックを開業する五⼗嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスしたいと思います。

うつによる休職を繰り返している⼈の中には、うつの症状が現れるものの、実はうつ病とは別の疾患が背景に隠れているケースが増えています。その⼀つが「⼤⼈の発達障害」です。そこで、前回は「⼤⼈の発達障害」がどういうものか、その症状などをお伝えしました。今回はマンガ家でコラムニストでもあるカレー沢薫さんとのインタビュー対談の模様をお伝えします。

『なおりはしないがましになる』好評連載中 カレー沢さんと対談

カレー沢薫さんは、マンガ家やコラムニストの仕事をしながらも「集中⼒がなく、⾃分の世界に⼊りやすい」「集団⾏動が不得意」「電話で⼈と話すことが苦⼿」といった発達障害の困りごとに⻑年、悩んでこられ、私のクリニックを受診されました。

そして定期的に通院した時の様⼦や⽇々の⽣活の中のエピソードをマンガ『なおりはしないがましになる』に描いています。そこで、カレー沢さんご本⼈にお話を伺いました。

◇ ◇ ◇

Dr.五⼗嵐 どうして発達障害のことをマンガに描こうとお考えになったのでしょうか。ご⾃分の悩みとしてあったことをマンガという形で発表していくというのは、ハードルが⾼かったのではないかと思います。

カレー沢さん そうですね。ちょうど、出版社の担当編集さんと「新しい連載マンガを始めたいね」ということで、いろいろテーマを話していまして。実は私は、少し前まで会社勤めをしながらマンガを描いていたのですが、その会社を辞めたことで、⾃分の発達障害の問題をとても⼤きく感じることが増えていました。それで、そういう話をしていたのです。

すると、担当編集さんが「ちゃんと病院で診てもらった⽅がいいのでは」と⾔ってくれて…。⾃分でも昔から違和感があり、発達障害なのではないか︖とは思っていたのですが、病院で検査を受けようという気持ちにまでは⾄っていなかったんです。

それで「もしかしたら、それが新しい連載のテーマになるのでは︖」と。そう⾔われて「良いキッカケなのかもしれない」と思いました。たぶん、⾃分ひとりだったら、違和感を持ちながらも、このままズルズルと⽣きていくのだろうという気がしていました。でも、「マンガにする」という動機があれば、公私混同ではありますが、⾃分の発達障害と向き合うキッカケになるのではないか…。そう考えて、マンガを書こう、と。

Dr.五⼗嵐 昔から、違和感を持っていたことと、仕事を辞めたこと。それから現在の担当編集者さんとの出会いがあって。この3つが重なったわけですね。そして、それをプラスに転じる機会にしようと思ったわけですか。

カレー沢さん はい。

Dr.五⼗嵐 その「プラスに転じよう」という発想は、普通はできないのではないかと思います。でも、悩みは悩みとしてあるわけですね。

カレー沢さん はい。

Dr.五⼗嵐 現在も、マンガは連載中ですが、発達障害だとわかって、マンガという形で表現していって、作品がどんどん⽣まれるわけですよね。そうしたプロセスについては良かったなと思っているのでしょうか。その辺りはどうですか?

カレー沢さん そうですね。マンガにすることによって、⾃分でも整理がついていったということはあります。やはり、マンガにする上では、障害のことも「ほかの⼈(読者)にわかりやすいように伝えよう」と考えるので、そうするうちに、⾃分の中でもよくわかるようになって。「ああ、こういうことなんだな」という、発⾒がすごく多かったです。

Dr.五⼗嵐 なるほど。

病院に⾏ったら「違う⼈間になれるのでは」と期待

Dr.五⼗嵐 私は「なおりはしないがましになる」というタイトルがとてもいいなと思っています。このタイトルに決めたのはどうしてですか。

カレー沢さん 実は私には「発達障害が治るのではないか」、「病院にいったら、根本的に⽣まれ変われるのではないか」というような期待が、ずっとあったんです。劇的に、今までとは違う⼈間になれるのではないかという、希望が。

でも、やっぱり、発達障害というものを知れば知るほど、根本的に変える、変わるということは無理というか、できないことはないのかもしれませんが、「それを目的とすると苦しい」ということがわかってきたんですね。だから「治すことを目標に考える」とやっぱり、逆に、すごく落ち込んでしまうので。それなら、「今までよりも、ちょっとは、ましになる」くらいの気持ちでいることが⼤事なんじゃないかなと。

Dr.五⼗嵐 「なおまし」というタイトルは、非常に核⼼をついていると思っています。残念ながら、発達障害が「治る」ことはありません。それでも、⾃分の困りごとや苦⼿なことを知るとともに、得意なことも理解し、困りごとへの対処⽅法を学ぶことで、学ぶ以前よりは、ずっといろいろなことが改善します。

カレー沢さんは私のクリニックに通って、発達障害の診断のための検査を受け、診断もさせていただいて、フォローアップのために何回も通院して頂きました。薬も出しましたけれども、薬の効果も⼀定程度だったので、最終的には薬を使わないということで現在に⾄っていますね。

そして、当院には「マンスリーコムズ」というプログラムがあり、何回か参加していただきました。

解説︓マンスリーコムズとは
メディカルケア⼤⼿町には「⼤⼈の発達障害」の専門外来があり、そこでは発達障害の検査を実施して診断を⾏っています。その専門外来で⼤⼈の発達障害と診断された⼈を対象に、2014年からコミュニケーションを改善する場として⽉1回⼟曜⽇に、マンスリーコムズというリハビリテーションプログラムを実施しています。
【プログラムの内容は】
・発達障害の特徴に関する学習
・⾃⼰の特性に対する理解を深めるワーク
・コミュニケーション上の⼯夫、⽣活上の⼯夫に関する意⾒交換
・⽇常⽣活における困りごとや対処法に関する共有と意⾒交換
というものです。

Dr.五⼗嵐 マンスリーコムズに参加してみて、特に印象に残っていることはどんなことですか︖

カレー沢さん コムズに参加して思ったのは「いろんな⼈がいるな」ということでした。私と似たような性格の⼈が集まるのかなと思っていたんですが、すごい社交的な感じの⼈もいれば、おとなしい⼈もいて。

発達障害って「こういう特徴がある」という風に、ズラっと並べられることが多いので、それで発達障害というテンプレートみたいな感じがあるのかと思っていたんですけれども、普通の⼈たちと全然変わらない、いろんな⼈がいると感じました。

⾃分の障害について話せる場の意味

それで、コムズの中では発達障害について話す機会があって。もちろん、コムズのプログラム内容でアドバイスなどがあり、学べることも多いんですけれども。⾃分の発達障害について話せる場があるということにすごく意味があるな、と思いました。そういう場所はほかにありませんから。

友達とか家族にも、⾃分の発達障害については話しにくいし、それに、その話をしたことで私に対するイメージが変わってしまうのではないかという、すごい恐怖がいまだにあるので。だから、コムズ以外では、⾃分の発達障害について話せる場はなく、「こういうことがあった」とか「こんなことで困った」と、遠慮なく話せる場があるというのはすごく⼤きいと思っています。

Dr.五⼗嵐 特に驚いたことや、新しい発⾒があったというような具体的なエピソードはありますか︖

発達障害も「悪くも無かったんじゃないか」と思えるようになった

カレー沢さん 通院し始めたときは結構、悲観的な気持ちだったんですけれども、私がマンガ家や作家の仕事をしているという話をすると、ほかの参加者さんたちに「逆に、発達障害だからそういう仕事ができているのじゃないですか」みたいなことを結構⾔われることが多かったんです。

「逆に発達障害で良かった…良かったというところまではいかなくても、悪くも無かったんじゃないかな」という気持ちになれました。やっぱりちょっと、発達障害であることを結構、肯定できるような…。

Dr.五⼗嵐 そうそう、発達障害の⼈には苦⼿なことがある⼀⽅で、得意なことも突出して有る場合が多いのです。私も同じようなことを伝えましたよね。

カレー沢さん そうですね。

Dr.五⼗嵐 ⾃⼰肯定感が出てきたということですね。それはコムズに出たからというだけじゃなくて、診察や診断などを通じてそういうものが出てきた、それは⾃分にとって⼤事なことだったということでしょうか。

カレー沢さん そうですね。

Dr.五⼗嵐 コムズは何回くらい参加されたんでしたか︖

カレー沢さん ⼀年間とまではいかないですけれど、5、6回は出たと思います。

Dr.五⼗嵐 わざわざ、⾶⾏機に乗ってね。

カレー沢さん はい。

Dr.五⼗嵐 コムズの中で、同じ発達障害の参加者同⼠で、個⼈的に仲良くなるというようなことはありましたか。

カレー沢さん 特にはありませんでした。私的にはその⽅がラクで。他の⼈は違っていたのかもしれないんですが。コムズ以外でもつながろうという感じがなかったのがラクでした。

Dr.五⼗嵐 あの場でおしまい、というのが良いと。

カレー沢さん はい。やっぱりちょっとサークルの中に⼊ると結構はみだしてしまう経験が多かったので、発達障害の⼈たちばかりのコムズでもそういう状態になってしまったら、本当につらい感じになってしまうので。その場でだけ話し合うという関係だったからこそ、何回も通うことができたと思います。

逆にみんなが仲良くなる場だったら、何回も参加できなかったような気がします。それに、「私は発達障害です」と⾔うことで相⼿に⼾惑われるのがイヤという気持ちがすごくあるんですが、コムズでは「発達障害です」と⾔って⼾惑う⼈は誰もいません。全員が発達障害ですから。いつも気にしていることを気にせずに話せるということに、開放感がありました。

加えて、⾃分が当事者だから「共感できる」というのも、嘘ではないんですね。発達障害ではない⼈に、発達障害の話をして「ああ、その気持ち、わかります」と⾔われても、「いやいや、発達障害ではないあなたに、わかるはずないでしょう」と思ってしまう。でも、コムズではそこにいる⼈たちの共感に嘘がない。

Dr.五⼗嵐 なるほど、そうですね。マンスリーコムズでは発達障害の⼈同⼠がコミュニケーションを取り合うことができますが、世の中には「困りごと」を抱えながら、まだ診断もされていない、発達障害かもしれないと気づいてさえいない⼈たちが実はとても多いのではないかと思っています。そういう⽅たちに、カレー沢さんなら、どんな⾔葉をかけますか︖

検査を受けたことで私は変わることができた

カレー沢さん そうですね…。違和感を持っている⼈はたくさんいらっしゃると思うんですけれども、やっぱり「検査を受ける」という段階までいくのはちょっとハードルが⾼いと思っているのではないでしょうか。私⾃⾝も⻑い間、⾃分でもおかしいなと思いながら、病院には⾏けなかったので。

たぶん、「検査してもしょうがない」と思っている⼈もいると思います。でも、検査をすることで、私はこれだけ変わったので。私が変わったということを⽰すことで、⾏ってみようと思う⼈が少し増えればいいなと思っています。

Dr.五⼗嵐 それは意味のあるメッセージですね。検査して診断を受ける以前、「ちょっと変だな」と感じる「違和感のようなもの」とは、具体的にはどういうことでしたか︖

カレー沢さん やっぱり、昔からコミュニティの中に⼊れないというか。ちょっとズレている⼈という扱いだったように思います。
学⽣時代はそれでも、どうにかなったのですが、やっぱり社会に出ると、そういうコミュニケーションは不可⽋で、それができないと仕事がうまくいかないんですね。

問題を起こす、迷惑をかけることがすごく増えてしまって。そうして、迷惑をかけるとやはり、⾃⼰嫌悪というか、すごく落ち込んでしまう。それで結局仕事も辞めたんですけれども。

Dr.五⼗嵐 さかのぼると⼩さい頃からコミュニケーションがうまくいかないな、と感じていたのですね。しかし、なぜうまくいかないかというのは、わからなかったんですよね。

カレー沢さん そうですね、やっぱり…検査して。発達障害のことを調べて。改めてわかったというか。マンガに描くにあたっては客観的にみなければいけないというのもありました。でも、実は「⾃分はそんなに問題になるほどではない」と思っていたんです。

「ただちょっと⼈⾒知りだから」みたいな感じで。でも、客観的に⾒てみると、確かに「⾃分がこう⾔ったら相⼿の⼈はこう思うだろう」みたいなことを、これまで、あまり考えずに来たなということがわかってきて。腑(ふ)に落ちました。

Dr.五⼗嵐 患者さんはよく「腑に落ちた」といいます。検査が終わって「ああ、なるほど」と感じるのですね。それが非常に⼤事なんですね。いま、この記事を読んでいる⼈たちの中にも、「もしかしたら、私は発達障害なのかも︖」と、困りごとを抱えている⼈たちはいるでしょう。そういう⼈たちが⾃分を客観視する材料というか、機会があるといいと思うんですね。それは、発達障害と診断するための検査を受けることであったり。

⾃分で「何かうまくいかない」「どうしてなんだろう︖」と思いつつも、⼀歩を踏み出せずにいるような⼈たちの中からも、検査を受ける⼈たちが増えるといいなと思っています。でも実は、いま現在、発達障害かどうかという診断するための検査を受けられる機関はあまり無いんですよね。

カレー沢さん そうなんです。それが⼤きな問題なんですよ。私がずっと検査を受けなかったのも、どこで検査できるのか、全然情報がないというところで、まずつまずいていたというのがあるので。地域によって格差が⼤きいといいますか。

Dr.五⼗嵐 最後にもう⼀つ、質問いいですか。ごく最近、受賞されたそうで。どういう作品で、どんな賞をもらわれたんですか。

カレー沢さん 孤独死と終活をテーマにした「ひとりでしにたい」というマンガで、第24回⽂化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しました。こういうマンガを描こうと思ったのも、やっぱり私⾃⾝が、ちょっとコミュニケーション能⼒に難があって。最後に孤独死するんじゃないかなという不安がすごくあり、そのテーマになりました。

Dr.五⼗嵐 ⽂化庁の賞だったんですか。受賞された感想としては。

カレー沢さん うれしいです。

Dr.五⼗嵐 「なおりしはしないが、ましになる」の連載は今後も続くのですか︖

カレー沢さん 続けたいと思っています。

◇ ◇ ◇

メディカルケア⼤⼿町の「成⼈発達障害 専門外来」について

当院で「⼤⼈の発達障害」の専門外来を始めたのは、2007年、2008年頃に「うつ」のリワークプログラムでデイケアに参加する⼈たちの中に、結構たくさん発達障害の⼈がいるなと感じたことがきっかけでした。その当時、発達障害の専門外来はまだまだ数としては少なく、⼤学病院にありましたが、そちらはとても重症な⼈たちが対象で、当院から⼤学病院に紹介しても、彼らの診断基準では「発達障害ではない」とされて戻されてしまうという具合でした。

しかし、発達障害の傾向は非常に薄いけれども、困りごとはたくん持っているわけです。⼩さい頃からの違和感もある。その⼈たちをきちんと診断するには、やはり検査を⾏わなければいけない。問診もしっかり⾏う必要がある。ということで、当院で発達障害の専門外来を始めたところ、たくさんの患者さんたちが来院しました。それで、外来に来て発達障害と診断された⼈向けに、治療をやっていく場として「マンスリーコムズ」というプログラムを作りました。

1カ⽉に1度、毎回50⼈から多い時は7、80⼈が通ってきます。1回3時間ほどのプログラムの内容としては、半分は発達障害について学ぶ時間。残り半分はグループに分かれてディスカッションしてもらっています。そこで同じ状況の⼈と話し合えるわけです。発達障害の⼈が⾃分の困りごとや、それに向き合うつらさなどを気兼ねなく話せる場は決して多くありません。

家族にさえ、打ち明けられない⼈も多いため、せめて、同じ障害を持つ者同⼠でいるときは「⾃分にはこういう症状があって」と、⽇ごろの悩みや⾃分なりの対処⽅法の⼯夫などを話せる場があればと考えて提供しています。メディカルケア⻁ノ門で1年に10回実施しています。このマンスリーコムズに参加するにはまず、メディカルケア⼤⼿町の「⼤⼈の発達障害専門外来」を受診してもらい、発達障害の検査をして診断を受けてからとなります。

カレー沢薫(かれーざわかおる)さん

漫画家・コラムニスト
2009年、初めての投稿作「無題」が華麗に落選。しかし、恐ろしいほどの強運によりその作品で連載デビューを勝ち取り、OL兼業漫画家になる。18年、⻑く勤めた会社を退職し、専業漫画家に。強烈な物⾔いが受けてコラムニストとしても活躍。現在、10本以上の連載を抱える。無類の猫好き、AB型、⼥性。

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