【日経グッデイ2021年2月掲載】うつ休職を繰り返している場合、別の原因が隠れているかも?

日経グッデイ:2021年2月掲載
うつ休職を繰り返している場合、別の原因が隠れているかもしれません

気分が落ち込む、食欲がない、眠れない、身体がだるい、好きだったはずの趣味を楽しいと感じられない…。これらは、いわゆる「うつの症状」の一部です。こうした症状が表れて「うつ」と診断された会社員は、会社を休職して休養し、服薬治療によって体調が回復するのを待って復職するのが一般的です。

ところが、復職後に再び、うつの症状が表れて再休職してしまう会社員も少なくありません。「やっと復職したのに、なぜまた?」その原因や理由がわからぬまま、何度も復職と再休職を繰り返す場合も多く、本人も会社も、家族も医者も、とても困っています。

「うつ」に隠れているのは双極Ⅱ型障害?大人の発達障害?

そして近年、うつの再休職を繰り返す原因としてわかってきたのが、うつの症状の裏に別の疾患=背景疾患が隠れている場合があるということです。それが「双極Ⅱ型(にがた)障害」と「大人の発達障害」です。

「双極Ⅱ型障害」は、普通は、ごく短期間の躁状態の後に、長いうつ状態がやってきて、その気分の波を繰り返します。そしてこの短期間の躁状態は本人は躁状態だと認識できず、また、周囲の人にも気づかれにくく、うつだけを繰り返しているように見えます。

また、「発達障害」は普通、子供の頃に周囲が気づくことが多いのですが、「大人の発達障害」は大人になるまで周囲に気づかれないほど程度が軽いものの、社会に出て仕事をするようになって初めて、苦手なことにも仕事として取り組まなくてはならなくなり、うまくできずに困ったり、悩んだ結果、うつの症状が表れて発覚する場合が多いのです。

今回は「うつで再休職を繰り返す場合に、背景に隠れている別の原因とその診断、治療と対応方法」について3回に分けて、お伝えしていきます。

背景にある原因を診断することは難しい。

これをお読みの皆さんの周囲に、うつによる再休職を繰り返している会社員の方がいらしたら、ぜひ参考にして頂ければと思います。というのも、背景疾患の存在というのはご本人か、あるいは周囲の誰かが「もしかしたら?」と疑ってみない限り、見つけることが難しいものだからです。

診察室での短い時間では診断できない

さて、まず最初に知っておいて頂きたいのは、「双極Ⅱ型障害」と「大人の発達障害」という、この2つは、そもそも診察室内での短い診察だけで診断するのは大変、難しいものだということです。

逆に言えば、診断が難しいからこそ、気づかれにくく、見過ごされてしまう。私が、うつの症状の背景にこれらの原因があるのではないかと気づくことができたのは、集団で行う復職支援の「リワークプログラム」に参加している患者さんたちの毎日の様子を見守る中で、おや?と感じる違いを見つけたことがきっかけでした。

私は2003年に東京のビジネス街・虎ノ門に精神科クリニックを開業し、うつで休職した会社員を数多く治療してきましたが、その当時から、復職後しばらくすると彼らの大半が再休職して戻ってきてしまうことに頭を抱えていました。

その対策として、患者さんにクリニックに一定の期間、通勤のように通ってもらって、職場のように何らかの作業をしてもらい、復職する前に、復職後の勤務の日々に似た環境の中で、それに少しずつ慣れてもらう復職支援のプログラムを2005年に作りました。それが「リワークプログラム」です。

1600人以上がリワークで復職

当クリニックで、このプログラムを経て復職した会社員はこれまでに1600人を超えました。プログラムに参加せずに復職した人の復職後3年の就労継続率はわずか2割ですが、プログラム経験者の復職後3年の就労継続率は7割となっています。

現在もこのリワークプログラム参加メンバーは常時およそ70名ほどいて、朝から夕方まで会社に出勤しているのと同じようにクリニックの中の施設で集団で過ごします。そこでは復職後に備えて体調管理方法や、病気との付き合い方を学び、プログラム参加中は医師をはじめ、看護師や保健師、精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士などの複数のスタッフが彼らを常時、見守っているという環境です。

プログラム参加中の様子から“違い”に気づく

そして、プログラムを始めて1年後の2006年頃からプログラムに参加している患者さん達の中に「軽い躁(そう)状態の人がいる」ことに気づき、その2年後の2008年頃には、とても能力が高い患者さんだけれど、どうもコミュニケーションをとるのがあまり上手ではなく、「もしかしたら…」と発達障害の可能性のある患者さんがいることにも気づきました。

それでもまだ、その当時は、軽躁状態があることと、うっすらと発達障害があることが、うつによる再休職につながるほど大きな影響を及ぼしているという認識は、私にもあまりありませんでした。

その後、リワークプログラムの参加者たちの中に、周囲の人たちと行動や様子に差や違いがある患者さんがいること、そしてその人数が増えていることに気づき、「うつの症状が繰り返し表れる背景に、双極Ⅱ型障害や発達障害の要因があるのではないか」という印象が強まっていったのです。

過去をたどることが必要

もう一つ、私がこれらの背景疾患に気づくことができた理由の一つに、リワークプログラム参加中に全員に提出してもらっている「自己分析レポート」があります。これは、患者さん自身に「なぜ自分が休職することになったのか、休職の原因はどこにあったのか」をレポートにまとめてもらうものです。

うつを発症した自分の過去をたどり、最初に現れたうつの症状がどういうものであったか、その症状が現れる直前に起きた環境の変化としてどんな出来事があったか。その環境変化に自分がどのように受け取り対応した結果、うつになったのかを自身で振り返ってもらっています。

同じ環境の変化に直面しても、誰もがうつを発症するわけではありません。自分の中にある課題に気づいてもらうことが目的のレポート作成ですが、一方で医師にとっては、患者さんの過去の状況を知る良い機会です。

例えば、自分の過去をたどる中で、過去に軽い躁状態があったことに気づいたり、小さい頃にいじめられていた経験について、当時はなぜ、いじめられていたのか分からなかったけれど、今から考えると、発達障害があったからだったのかもしれないと気付く、といったことがあります。

それが確定診断にはならなくても「もしや双極Ⅱ型かも?」「発達障害かも?」と疑い、診断を変えていく機会となります。診断を変えると治療内容も変わります。その結果、症状が改善した人をたくさん診るようになりました。

また、2014年には「光トポグラフィ」という検査機器を導入。これは脳の表面を流れる血流量の変化を測定することで、その変化のパターンからうつ症状の背景を知り、うつ状態の鑑別診断の補助検査とするものです。

毎日の様子を見守る中でわかってきた

さて、うつの症状の背景に別の原因が隠れているかもしれないということは、診察室というかしこまった場での短い診察時間では決してわかり得ないものです。私も、診察だけをやっていたら、おそらくわからなかったでしょう。リワークプログラム中の患者さんたちの毎日の様子を見守ることでわかってきたというのが実感であり、利用者の皆さんが教えてくれたというのが実感です。

つまり、診察室での短い時間の診療しか行っていない医療機関では、うつの症状の背景に別の原因が隠れていることに、おそらく気づくことはできないだろうといえます。加えて、正しい診断ができていなければ、正しい治療も難しいことになり、病状を悪化させる可能性もあります。背景疾患によっては治療に用いる薬の種類がまったく異なる場合があるからです。

正しい診断の意味

例えば、背景に双極Ⅱ型障害が隠れているのに、それを知らずに、うつの症状があるからと抗うつ剤を処方してしまうということが起こり得ます。うつの症状を改善させるためには抗うつ剤を用いますが、双極Ⅱ型障害の場合は躁状態とうつの波をコントロールする必要があるため、抗うつ剤ではなく気分安定剤を用います。双極性障害の患者に抗うつ剤を使っていると気分の波がかえって大きくなることも多く、逆効果になりかねません。

絶対に抗うつ剤を使ってはいけないということではありませんが、慎重に使うべきですし、少なくとも双極Ⅱ型障害の可能性があることを知った上で使うべきところです。また、発達障害の患者さんに「適応障害」という診断を出す医師がありますが、この適応障害というのは、何か非常にショッキングな出来事があって、それで急にうつや不安の症状が表れた場合に使う病名です。この場合、そのショッキングな出来事がなくなったら、症状は自然に回復してきます。それが適応障害です。

しかし、発達障害の人が周りの環境に適応できず、うつ状態になったからといって、それを適応障害と診断してしまうのには問題があると思います。発達障害に伴ううつの原因は発達障害ですから、その診断にどんな意味があるのだろうかと疑問を感じます。

別の原因の可能性を考える

同業の医師を批判することになってしまうかもしれませんが、またもちろん、私も同じ環境で診療していたら、同じように正しく診断できなかっただろうと思っていますが、それでも、少なくとも、うつの再休職を繰り返している患者さんには、うつの症状の裏側に、診断が難しい別の原因がある可能性について、知っておいてほしいと考えています。

現在は、仮に、うつの症状があって繰り返し休職している会社員が100人いるとしたら、おそらく8割の人が双極Ⅱ型障害の可能性があると考えています。また、発達障害の可能性については6割くらいの方に、少なくとも発達障害の可能性があると考えています。

もしも、皆さんの近くに「うつによる休職」を繰り返している人がいる場合は、一度、背景に別の原因があるのではないか?と疑ってみてください。現在、全国に200以上あるリワークプログラムを行っている医療機関での相談が可能です。

リワークプログラムを行っている医療機関リスト

一般社団法人 日本うつ病リワーク協会 リワーク施設一覧
http://utsu-rework.org/list

また、一方でこうした「うつの症状」が表れる病気は、実は多数あります。例えば、脳腫瘍や脳卒中などの神経や脳の病気、女性の場合は甲状腺機能低下症(橋本病)や妊娠時期・出産後・更年期などに生じる内分泌(ホルモン)系疾患でもうつの症状が表れることがあります。

このほか、がんや糖尿病、心筋梗塞などによっても。さらに統合失調症や、痴呆の前段階にもうつの症状が現れることが知られています。うつの症状が表れた場合に、すべてがうつ病というわけではなく、別の原因の可能性もあることを知っておく必要があります。

そして、お伝えしたように、何度も再休職を繰り返している場合には、うつの背景に別の原因がある可能性と、その原因として今回ご紹介した双極Ⅱ型障害と発達障害は、そもそも正しく診断をすることが難しいということを、多くの関係者の皆さんに知って頂き、参考にして頂ければと思います。

次回は双極Ⅱ型障害の特徴や治療と対応方法についてお伝えします。

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