【日経グッデイ2021年3月掲載】うつ休職を繰り返す人の8割に双極Ⅱ型障害の可能性あり

日経グッデイ:2021年3月掲載
うつ休職を繰り返す人の8割に双極Ⅱ型障害の可能性あり

うつ病などの気分障害の患者数は全国で100万人を超えており、ビジネスパーソンにとって大きな健康問題です。この連載では、東京のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスします。

ごく短く軽い躁への気づきが正しい診断につながる

うつ休職を2度、3度と何度も繰り返している場合、うつの症状の裏側に別の疾患=背景疾患が隠れていることがあります。診察室での短い診察時間の中で医者がそれを見つけて診断することは難しく、正しい診断に至らぬまま、誤った治療が続いている場合が多いのが問題です。

今回は、うつ休職を繰り返す原因となる背景疾患の一つ、「双極Ⅱ型(そうきょくにがた)障害」について、その特徴や治療、対応方法を具体的にお伝えしていきます。

わたしのクリニックには、うつによる再休職を何度も繰り返している患者さんが転院してくることが多く、調べてみると、そうした人たちの実に8割という高い割合で、うつの症状の背景に、双極Ⅱ型障害があることがわかり、わたし自身も大変驚きました。再休職を繰り返している人が10人いたら、8人が双極Ⅱ型障害の可能性があるということです。

長い「うつ」の間に、軽い躁(そう)

双極性障害は「躁(そう)とうつを繰り返す、躁うつ病」であり、大きくわけて、双極Ⅰ型(いちがた)障害と双極Ⅱ型障害の2つがあります。

双極Ⅰ型障害は、躁状態の時に「大声を発しながら暴れて警察沙汰になる」「大金を短時間に散財してしまう」など、明らかに常軌を逸脱した、行き過ぎた行動があるのが特徴であり、入院治療が必要ですが、周囲が気づきやすく診断することは容易です。

一方の双極Ⅱ型障害は、憂うつな気分が続く「長いうつ状態」の間に、ごく短期間軽い「躁(そう)状態」が現れ、その後は長いうつ状態と短い軽躁状態を交互に繰り返す病気です。ではなぜ、この双極Ⅱ型障害がうつ休職を繰り返す原因となるのか。

その理由の一つに、双極Ⅱ型障害の特徴が「躁の程度がごくごく軽い、軽躁(けいそう)だということ」があります。当の本人も「いつもより調子がいい」くらいにしか感じず、また、その期間は4日間程度か、もっと短い場合もあり、それゆえに、それが「双極Ⅱ型障害」による軽躁状態だとは本人も周囲の人々も気づきません。

正しく診断できていなければ薬も正しく処方されず…

そのため、「うつ」だけを繰り返しているように見えることから、「うつ病」や「反復性うつ病」と診断されて、それがずっと続いてしまっていることが問題です。
なぜなら、正しい診断に至っていなければ、正しい薬も処方されておらず、適切な治療が行われていないからです。

うつ病と双極Ⅱ型障害では薬が全く違う。

うつ病の治療では、うつの症状を改善させるために、原則、抗うつ剤を処方します。一方、双極Ⅱ型障害では、躁とうつの気分の波をコントロールして、その波の程度を小さくする治療が必要なため、抗うつ剤ではなく気分安定薬を用います。

双極Ⅱ型障害の患者が抗うつ剤を服用すると、気分の波が大きくなることがあり、正しく診断できていないために、正しい薬が処方されず、かえって症状を悪くしてしまうことになりかねません。

また、背景に双極Ⅱ型障害があると分からなければ、うつの症状が改善した段階で主治医が「復職可」という診断書を出す場合があるわけです。そして、復職後に、いずれ再び軽躁状態が現れ、また「うつ」がやってくるということを繰り返し、何度も休職することにつながります。

先にお伝えしたように、診察室での短い診察時間内に患者の「軽躁状態」を医者が見抜いて双極Ⅱ型障害だと診断できるということは、まずありません。本人が情報提供しない限り、診断はできません。自分の過去をさかのぼって、ごく短く軽い「軽躁状態」があったことを確認して、医者に伝えることが必要です。

うつによる再休職を繰り返している場合は、本人や、周囲のご家族、同僚の方などが「もしかしたら?」と、背景に別の病気ではないかと疑ってみることが大事です。

過去に、軽躁状態の時期があったかどうかを思い出す

では、軽躁状態をどうやって見つけるかというのは、なかなか難しいのですが、まずは本人が軽躁状態の時期があったのではないかと疑って、根気よく丁寧に振り返ってみることです。

躁状態の特徴的な言動としては、次のような行動があります。

テンションが高くなる、声が大きくなる、おしゃべりになる、話し続ける、話の内容が大きい、話しかける相手が多い、メール数が多い、電話をかける回数が多い、人の話を聞かない、予定外の行動をする、買い物が増える、金遣いが荒くなる、短い睡眠時間でも活動できる、頭の回転がよくなるなど、自分の持っているエンジンは普通の人より高い回転数で回せるエンジンだと考えるとわかりやすいのです。

一方でテンションが高くてイライラが強いので感情が不安定になり、ケンカっぱやくなるというようなこともあります。でも、決して憂うつだという状態ではありません。

復職には、リワークプログラムを利用する

以前、うつによる休職からの復職のための「リワークプログラム」についてお伝えしましたが、このプログラムの中では「どうして自分が休職するに至ったか」を振り返って、自分のものの考え方や行動から原因を探る、「自己分析レポート」を、プログラム参加者全員に書いて提出してもらっています。

実は、この自己分析レポートを作る過程で自分の行動を振り返り、「過去に軽い躁があったのではないか?」と疑ってみることで、過去の軽躁状態を思い出して、双極Ⅱ型障害であるという確定診断に至るケースが結構多くあります。

集団で行うリワークプログラムには同じうつ症状があって会社を休職した、いわば“同病の仲間”が集まります。うつの症状と、会社を休職するという大きな環境の変化に直面して不安と孤独を感じる中で、同じ病気、同じ境遇の仲間と出会い、同じプログラムに一定の期間、一緒に参加します。

再休職しないために、自分の病気について学び、セルフケア術を身に付けていくプログラムの過程で、患者さん同士は励まし合い、支え合う存在になり、共感や癒しが生まれて互いに気持ちが前を向く、その効果は大変大きいものです。

そういう環境だからこそ、過去の自分を丁寧に振り返り、軽躁状態があったのではないかと疑ってみる作業にも、同病の仲間と一緒に前向きに積極的に取り組めるという効果があります。

家族など身近な周囲が双極Ⅱ型に気づくカギ

もう一つ、ご家族や職場の同僚、親しい友人など、本人の身近にいる周囲の人が「もしかしたら、この人は双極Ⅱ型かもしれない」と気づく場合もあります。この場合の着目点は「軽い躁状態」の後に「うつ」が来るという、症状が現れる“順番”です。

双極Ⅱ型障害の「軽い躁状態の後にうつが来る」という特徴は、「エンジンを回し過ぎて焼き付いてしまって止まる」と捉えることができ、この逆はあまりみません。

つまり、例えば家族に「うつ」の症状が現れた時に、その状態になる前の様子を思い出してみて「そういえば少しテンションが高い時期があった」となったら、この人は双極Ⅱ型障害の可能性があるかもしれない、と考えられるわけです。

この軽躁の期間は4日間程度と言われますが、もっと短い人もいます。短期間でも、このような状態があったら、双極Ⅱ型障害の軽躁状態である可能性があります。また、季節も関係しています。双極Ⅱ型障害の人は春先や秋口が苦手です。それは日照時間や気温、天候が関係しています。そういう環境の変化が人間の脳に影響を及ぼして、気分も変動させるということが知られています。

春先や秋には「うつ」がよく出てきます。加えて、季節だけではなくほかにもストレス要因があります。職場も、個人的な生活にもストレスがあり、気分の波を大きくする要因となります。

うつによる再休職を2度、3度と繰り返していて、上記のような軽躁状態がある場合は、次にお話しする検査機器を導入している医療機関で光トポグラフィ検査を受け、改めて病気の鑑別診断をやり直してもらうよう、主治医に働きかけることをお勧めします。

脳の血流量の変化のパターンを測る「光トポグラフィ」検査

 病気の鑑別診断を補助する検査機器が「光トポグラフィ」です。これは頭に小さな端子を付けて、ディスプレー上に表示される文字を読んでもらうなど、脳を働かせている間の脳の血流の変化を測定するものです。メディカルケア虎ノ門では2014年に導入しました。

これによって確認された、血流の変化のパターンによって、うつの症状が「うつ病パターン」「双極性障害パターン」「統合失調症パターン」「健常パターン」の4つのいずれかであるかが分かります。あくまでも病気の鑑別診断の補助とするための検査ですが、診断ばかりでなく薬の選択にも役立ちます。

●光トポグラフィー検査・波形の違い

頭に小さな端子を当て、ディスプレイ上の文字を読み上げた後、「あ」で始まるものの名前を思いつくままに言い続けるといった課題を行い、その間の脳の血流量(ヘモグロビン濃度)の変化を測定してグラフ化することで、病気の特徴を見分けるというもの。毛流量の波形変化パターンが病気によってそれぞれ異なることから、鑑別診断の補助として用いられています。ただし、残念ながら高額機器のため導入している医療機関は限られているのが現状です。

「軽躁」を抑えるセルフコントロールが「うつ」を予防

双極Ⅱ型障害の治療としては気分の波を小さくする気分安定剤を処方しますが、そうした薬物療法とは別に、自分の行動を自分でコントロールすることも有効です。やり過ぎている時期がある」わけですから、この時期の「やり過ぎている行動とその程度」を小さくするように自分でセルフコントロールしていくと、その次にやってくる、うつの波が小さくなり、うつを予防できるようになってきます。

ある患者さんは「自分では自分の軽躁状態に気づけないことが多い。ちょっと調子がいい程度にしか感じられない」と言い、家族や友人、職場の同僚など周囲の人達に自分がメンタルヘルスの病気を抱えていることをカミングアウトして、「自分の感情が上がったり下がったりしたら、教えてください」と頼んでいました。「私にとっては注意してもらうことが大事なんです」といいました。

すると「そういえば最近、発言が多い」「明る過ぎる」「メールが増えた」「ちょっと攻撃的だと感じた」といったことを、その都度、教えてもらえるようになったとなりました。そして、「調子が上がっている」と指摘された場合には言動を抑えるように留意し、やらなくてもいいことはやらず、断れることは断るようにしたそうです。

「その時に自分の言動を抑えることが自分を守ることにつながり、結局は自分が倒れないことで職場の皆に迷惑をかけずに済む」と語っていました。

周囲に病気をカミングアウトすることについての抵抗

周囲にカミングアウトすることについて抵抗を感じる人はいるでしょう。でもこの人は「周囲からのサポートを受けるために抵抗はありませんでした」と述べています。

気分が良いと感じている時期に、自分の行動を抑えるのはなかなか大変ですが、この患者さんのように抑えると、その後の「うつ」を予防することにつながります。逆に言えば、これを抑えないと、次にやってくる「うつ」は予防できません。

例えてみれば、波打ち際に立っているのと同じで、様々な要因から「(気分の)波が来るな」と考えていないと、波に流されてしまいます。しかし、波が来たときに「来るな」と思っていれば、しっかり踏ん張って立っていることができ、それほど流されずに済みます。軽躁時の波を小さく抑えることが、「波が来ても踏ん張って立っていられる」状態につながるのです。

自分にとって何がストレスになるのか、自分がどういうことに弱いのかということを知っていることも大事です。それが季節である場合も、心理的なストレスの場合もありますが、大事なのはストレスが溜まっていると自覚して、自分の時間を充実させストレスを開放することです。

この、周囲にカミングアウトした患者さんは、その後、本当に病状が安定していきました。自分の軽躁状態を知って行動を抑える対策は効果があるということです。

また別の患者さんは自分の一日の行動とその時の気分の上下について、毎日、朝・昼・晩と定期的に時刻を決めて振り返り、記録を付けて観察していました。いつもよりも行き過ぎた行動を確認したら、その行動量を抑制するためです。自分の行動観察と記録を毎日、細かく丁寧に続けていくことは大変なことだったと思いますが、家族に心配をかけたくないと言って、自分の行動の変化や体調管理としっかり向き合っていました。

そうやって、ごく短い軽躁の出現に注意して、その時に気分の高揚による行動を抑制できると、次にやってくる「うつ」の期間が短くなり、うつの程度も浅くなります。

やがて「うつ」でも「軽躁」でもない普通の時間が増えていく

そして、うつの期間が短くなるということは、「うつ」でも「軽躁」でもない、どちらでもない平常な状態が生まれ、普通の時間がどんどん長くなっていくのです。 この状態が「うつと軽躁の波をコントロールできている状態」といえます。

毎日、定期的に自分の行動記録を付けていた患者さんは、その後、薬を止めることができました。双極Ⅱ型障害は患者さんが自分で、病気について学び、自分の体調や状況を把握して、管理していくことで、次に来る「うつの波」を抑えて、付き合っていくことができるのです。

「付き合っていける」という表現では病気が一生続くように感じるかもしれませんが、躁状態が激しいⅠ型の場合は入院が必要で、長い期間の治療が必要であろうと考えられていますが、この双極Ⅱ型障害という病気が「ずっと治らないのかどうか」ハッキリ決着はついていませんⅠ型とⅡ型はどう違うのかといったことも、まだまだわかっていないことは多いのです。

今のところは気分の大きな波がなくなって、薬を徐々に減らしても、その波が大きくならなければ治っていっていると判断しています。

正しく病気を診断できる医療機関の受診が重要

いずれにしても、背景疾患として双極Ⅱ型障害が隠れているのに、「うつ」と診断されて、合わない薬を服用している結果、気分の波がおさまらず何度も再休職を繰り返している会社員が現在もたくさんいるということを知ってもらい、再休職を繰り返している人が身近にいるようなら、そもそもの診断が間違っている可能性があることを伝え、正しく病気を鑑別診断できる医療機関を受診することを勧めて頂きたいと考えています。

次回はうつの再休職を繰り返す背景に「大人の発達障害」がある場合について、その特徴や対応方法についてお伝えする予定です。

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